3月9日は「脈(みゃく)の日」3月9日から3月15日は「心房細動週間」


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「“検脈”を 今日からはじめて 健康長寿 〜不規則な脈は“心房細動”かもしれません!〜」

心房細動は「寝たきり」となりやすい病気の原因の一つです

不整脈の一種で脈が不規則になる「心房細動」。

なぜ「心房細動」で「寝たきり」になるのでしょうか?それにはまず「寝たきり」の原因として多い病気を知る必要があります。図(寝たきりの原因)は2019年国民生活基礎調査による「要介護5(寝たきり)」の原因となった病気の割合を示したものです(図)。この図から、「脳卒中」と「認知症」が約半数を占めていることがわかります。また「心臓病」も見られます。「心房細動」は「脳卒中1)認知症2)3)の原因となり得る不整脈で、さらに「心臓病」の一種である「心不全3)を起こしやすいことが知られています。

 

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心房細動は「脳卒中」の原因の一つです

 「脳卒中」のうち最も多い「脳梗塞」は、頭蓋内や頚部の血管が詰まることで起こります(図)。「心房細動」があると心臓の中(左心房)に「血の塊(血栓)」ができやすくなります。この血栓が心臓から頚部や脳の血管に流れていき、血管を詰まらせてしまうと「脳梗塞」が起こります。このようにしておこる脳梗塞は心原性脳塞栓症と呼ばれ、症状が重く「寝たきり」になりやすいことが知られています。また「命を落とす危険性」も高い脳梗塞です6)

心房細動は心臓の働きを悪くする原因の一つです

息切れやむくみ、そしてこのような症状がだんだん悪くなって命を縮める状態が「心不全」です。「心不全」は色々な心臓の病気で起こりますが、「心房細動」は心臓に負担をかけるため「心臓の働きを弱くする」ことがあります。その結果「心不全」を起こして「寝たきり」や「寿命を縮める」危険性が高まります4)7)

心房細動は認知症の危険性を高めます

様々なことを正しく理解して適切に実行する能力を「認知機能」と呼び、この能力に問題が起こることを「認知機能障害」、「認知症」と言います。脳に広くダメージが起こるとこの病気が起こりやすくなります。「心房細動」で「脳卒中」が起こることがありますが、「脳卒中」は「認知症」の原因でもあります。また「心房細動」は心臓の最も重要な働きである「血液を全身に送るポンプ」としての機能が悪くなるため、脳を養う血液が足りなくなったり、脳が痩せたりすることが知られています。これらの原因により「認知症」が起こりやすくなります2)3)

 

心房細動を見つけるために、まず脈に触れることから始めましょう

心臓の動きと一致して血管は脈を打ちます。「心房細動」は脈の間隔が不規則になる不整脈なので、自分の指で脈を触れることで「心房細動」を疑うことができます。のように親指側の手首のしわの部分に指3本(人差し指、中指、薬指)をあてることで脈を測ることができます。この時、指先を少し立てると分かりやすいです。また自動血圧計で脈の不整を検知するもの(不規則脈波検出機能付き家庭用血圧計)や、家庭用心電計もありますので、これも脈を調べる有用な方法です。1〜2分自分の脈を触ってみて、不規則だったら「心房細動」かどうか、お医者さんに相談して是非心電図検査を受けてださい。

もし「心房細動」がみつかったら、「血栓(血の塊)」を出来にくくする薬(抗凝固薬)や、脈を整える薬・脈の速さを調節する薬(抗不整脈薬)、カテーテル(細い管)による治療(カテーテルアブレーション治療など)で、「脳卒中」「心不全」「認知症」、そして「寝たきり」になるのを予防しましょう.

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心房細動に関する最近の動向

心房細動は肥満や運動不足、喫煙、アルコール過飲など良くない生活習慣で起こしやすいことに加え、高血圧や糖尿病など生活習慣病の治療で心房細動に伴う症状が軽快することが知られています8)

一方、脳梗塞うちで原因不明のものは20~40%を占めます。これらの患者を心電図で丹念に調べると、半数近くに心房細動が見つかります9)10)。本人も気が付かないうちに心房細動を起こし、心臓の中に血栓(血の塊)が出来て、それが原因で心原性脳塞栓を起こしてしまったと考えられます。

 これらの脳梗塞を予防するためには、早めに心房細動を見つけ、適切な抗凝固薬(血液が固まりにくくする薬)で予防する必要があります。

以前はワルファリンが唯一の抗凝固薬でした。ワルファリンは患者毎に量を調節して効き目をコントロールしますが、時にこれが難しく、効果不十分で脳梗塞を起こすことや、効き過ぎて脳出血等の合併症をおこすことがあります。このため「直接作用型経口抗凝固薬」が開発されました。これらはワルファリンよりも用いやすく、かつ同等以上の効果・安全性が期待でき10)14)、出血の可能性が高い方、高齢の方にも比較的使いやすくなっています15)16)

現在では抗凝固薬の多くが直接作用型経口抗凝固薬に置き換わり、以前よりも多くの患者に適切な抗凝固療法が届けられるようになっています17)

この他、脳梗塞予防にはカテーテルアブレーション治療18)と経皮的左心耳閉鎖術19)という治療があります。

カテーテルアブレーション治療は、細い管(カテーテル)を用いて不整脈の原因となっている部位を焼灼し、心房細動を治す治療です。抗不整脈薬やアブレーション治療で心房細動を抑えることで、動悸などの症状を改善して生活の質を向上するのみならず、脳梗塞発症率や死亡率が低下することも証明されました18)。また、カテーテルアブレーション治療は「心不全」を起こしている方の寿命を伸ばすという研究報告もあります20)。使用するカテーテルも進化しています。従来の細いカテーテルやバルーンカテーテルを使った熱(焼灼)や冷凍(凍結)の他に、電気パルスで心筋細胞を選択的に破壊する方法も開発されており、安全性のさらなる向上が期待されています21)-23)。日本でも今年から一部施設で開始される予定です。現在、本邦では年間7万人以上がこの治療を受けています。ただし、発作性心房細動に対する有効性は70-80%であり21)-24)、この治療に向かない場合もあるので注意が必要です。

経皮的左心耳閉鎖術は、血栓ができやすい心臓の場所(左心耳)をカテーテルで閉塞させる治療です。この治療により抗凝固薬の中止も可能となるため、出血しやすい体質や合併症のためにこの薬による治療が難しい方の有力な選択肢となります19)

 

 

このように心房細動は治療の選択肢が増えて、治療効果を証明するエビデンスも増えてきました。さらに心房細動と認知症の治療についても様々な議論が行われており、一部の認知症に対しては抗凝固薬による予防効果の期待が高まっています25)27)

しかし、心房細動は症状がない場合も多く5)、発作が起こっている時以外は心電図でも異常が出ないため、診断が難しく、適切な治療が受けられていない場合が多いのが現状です。このため、原因不明の脳梗塞を発症してしまった患者さんの皮膚の下に、小さな心電計を植え込んで心房細動が隠れていないか調べることもあります28)

その他にも、脈の不整を発見できる不規則脈波検出機能付き血圧計や簡易な心電図も測定できる心電計付き血圧計、携帯型心電計が市販されています。また、アップルウォッチでも心電図記録することが可能です29)。これらの機器を用いることで心房細動の発見率が向上することが報告されました30)

このようなテクノロジーや、自分での脈拍チェック(脈とり)で、隠れていた無症状の心房細動を見つけて脳梗塞予防の治療を始めることが重要です。

                                                                

参考文献
  1. Wolf PA, et al. Stroke 1991;22:983-988.
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  29. Apple Inc. https://www.apple.com/jp/watch/why-apple-watch/
  30. Lopez Perales CR, et al. Europace 2021;23:11-28.